先日、Cotorrifactionとしてコーヒー講座の講師をさせていただきました。
テーマは「おいしいコーヒーの淹れ方」。
けれど、講座の最初にお伝えしたのは、
「コーヒーのおいしさに、ひとつの正解はありません」
ということでした。
酸味のあるコーヒーが好きな方もいれば、しっかりとした苦味やコクが好きな方もいます。
ブラックで飲むのが好きな方もいれば、砂糖やミルクを入れた方がおいしいと感じる方もいます。
専門店のコーヒーでも、コンビニのコーヒーでも、自分がおいしいと思えるなら、それがその人にとっての正解です。
今回は、そんな考え方を土台にしながら、家でもできるだけ簡単に、安定してコーヒーを淹れる方法を一緒に考えてみました。
「前半は酸味、後半は苦味」って本当?

コーヒーの抽出について調べていると、よくこんな説明を見かけます。
前半は酸味
中盤は甘味
後半は苦味や雑味
とても分かりやすい考え方です。
私自身も、これまで抽出を考えるときの一つの目安にしていました。
ただ、今回の講座を準備する中で、
「本当に味はそんなにきれいな順番で出てくるのだろうか?」
と気になり、改めて研究を調べてみました。
すると、実際はもう少し複雑でした。
味は「順番に出る」のではなく、バランスが変わっていく

ペーパードリップの抽出液を時間ごとに分けて調べた研究では、酸味だけでなく、苦味や渋味も前半ほど強く感じられる結果が出ています。
一方、後半の抽出液では、全体として液が薄くなりながら、甘い印象や花、果実、蜂蜜のような印象が相対的に目立つ傾向が確認されました。
つまり、
酸味が終わってから甘味が出て、そのあと苦味が出てくる
というより、
さまざまな味や香りが最初から重なっていて、その強さのバランスが少しずつ変わっていく
と考える方が、実際の抽出に近いようです。
さらに面白いのは、後半の抽出液の方が「甘い」と感じられたのに、実際に測定された糖類はむしろ前半の方が多かったこと。
コーヒーの「甘さ」は、砂糖のような甘味成分の量だけで決まっているわけではありません。
酸味や苦味、香り、濃さなどが重なり合うことで、私たちは一杯の味を感じています。
「後半=雑味」とも限らない
もう一つ、よく聞くのが、
「最後まで落とすと雑味が出る」
という説明です。
もちろん、抽出をどこまで続けるかによって完成した一杯のバランスは変わります。
ただし、研究を見る限り、
「後半になると悪い成分が突然出てくる」
と単純に考えるのは少し違うようです。
後半の液は、前半よりもかなり薄くなっています。
そのため、
前半と後半では、良い液・悪い液という違いではなく、濃さと味のバランスが違う
と考える方が分かりやすそうです。
では、家ではどう淹れればいい?
研究を調べれば調べるほど、コーヒーの抽出は複雑です。
湯温、挽き目、粉の量、お湯の量、注ぐ速さ、注ぐ回数、抽出時間。
すべてが少しずつ関係しています。
でも、家で毎朝コーヒーを淹れるときに、そこまで考える必要はありません。
今回の講座では、
「まず、同じように淹れられる基準を一つ作る」
ことを大切にしました。
そこで考えたのが、とてもシンプルなレシピです。
Cotorrifactionの基本レシピ

コーヒー粉 10g
お湯 150g
覚え方は、
「豆の3倍量のお湯を、30秒ごとに5回」
です。
豆10gなら、1回に注ぐお湯は30g。
0:00 30g
0:30 30g追加
1:00 30g追加
1:30 30g追加
2:00 30g追加
合計150gです。
最初の30gは、粉全体を濡らす「蒸らし」を兼ねています。
2分30秒前後で落ち切ることを一つの目安にしますが、2分30秒が絶対の正解ではありません。
大切なのは、
毎回だいたい同じ量を、同じ間隔で注げること。
「30g・30秒・5回」なら、初めての方でも比較的覚えやすく、同じ淹れ方を再現しやすくなります。
同じ豆でも、淹れ方で味は変わる
講座では、同じコーヒー豆を使って2種類の淹れ方を試しました。
一方は、蒸らしをせず、お湯を一気に注ぐ方法。
もう一方は、最初に蒸らしをして、30秒ごとに分けて注ぐ基本レシピです。
どちらがどの淹れ方かは伝えずに飲み比べてもらい、
「香りはどうでしょう?」
「酸味や苦味は?」
「どちらの方が好きですか?」
と感じたことを自由に話してもらいました。
ここでも大切なのは、
どちらかを正解にしないこと。
もし一気に注いだ方がおいしいと感じる方がいても、それでいいと思います。
ただ、家で何度も同じ味を作りたいと考えたときには、条件をある程度決めて淹れる方が安定しやすくなります。
今回の基本レシピは、そのための一つの「基準」です。
味を変えたいときは、一つだけ
基本レシピで淹れてみて、
「もう少しこうしたい」
と思ったら、全部を変える必要はありません。
むしろ、
一度に変えるのは一つだけ。
これがおすすめです。
例えば、挽き目を変えられる場合。
酸っぱく、少し尖った印象なら、少し細かくしてみる。
苦く、重く感じるなら、少し粗くしてみる。
スーパーなどで、すでに挽かれたコーヒーを購入している場合は、湯温を少し変えて試す方法もあります。

酸っぱく尖って感じるなら、少し高め。
苦味が強いなら、少し低め。
ただし、
「高い温度は苦味を出す」
「低い温度は酸味を出す」
という単純な仕組みではありません。
温度を変えることで、成分が溶け出す速さが変わり、その結果として味のバランスが変わります。
そして、もっと大きく味を変えたい場合は、淹れ方よりも豆選びの方が分かりやすいこともあります。
酸味を控えたいなら、少し深めの焙煎。
苦味を控えたいなら、浅煎りから中煎り。
まずは、自分がどんなコーヒーを好きなのかを知ることも、おいしい一杯への近道です。
基本の一杯から、自分の一杯へ
コーヒーについて調べていると、
「この方法が正しい」
「この温度でなければいけない」
「この時間で落とさなければいけない」
という情報に出会うことがあります。
もちろん、それぞれに理由があります。
でも、コーヒーは嗜好品です。
大切なのは、数字通りに淹れることそのものではなく、
自分がおいしいと思える一杯に近づいていくこと。
まずは同じレシピで淹れてみる。
飲んでみる。
少し違うと思ったら、一つだけ変えてみる。
そんなふうに、自分の好きな味をゆっくり探してみてください。
小鳥が羽を休めるように。
コーヒーを淹れる時間も、飲む時間も、ほっと息をつけるひとときになればうれしく思います。
参考文献
Batali, M. E. et al. (2020).
Sensory and monosaccharide analysis of drip brew coffee fractions versus brewing time.
Journal of the Science of Food and Agriculture.
Batali, M. E. et al. (2020).
Brew temperature, at fixed brew strength and extraction, has little impact on the sensory profile of drip brew coffee.
Scientific Reports.
Guinard, J.-X. et al. (2023).
A new Coffee Brewing Control Chart relating sensory properties and consumer liking to brew strength, extraction yield, and brew ratio.
Journal of Food Science.
※研究結果は特定の豆・焙煎度・抽出条件で得られたものです。すべてのコーヒーで同じ結果になることを示すものではありません。

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